今回も、本のソムリエさんお薦めの一冊です。
「中国がなくても、日本経済はまったく心配ない!」 三橋貴明著 ワック(2010.12)
経済評論家である著者が、「日本経済は中国なしでは成り立たない」というイメージ論を打破している一冊です。
この本の構成は以下の通りです。
プロローグ レア・アースの神話
第1章 中国との貿易がゼロになると、どれくらい困るのか?
第2章 国民を置き去りにした経済成長の欠陥
第3章 輸出に頼らざるを得ないゆえの限界
第4章 不動産バブルのジレンマ
第5章 中国は先進国になれない
エピローグ 体験者が語るチャイナリスク
この本に書かれている沢山のデータを見ると、日本は他の諸外国と比べても輸出依存でも、中国依存でもないことが読み取れます。一時期に比べ、「海外進出なら中国」という風潮がなくなってきていますが、中国との経済関係を冷静に見るのにはいい本だと思いました。
また、中国が抱える不動産バブルの解説や、中国からの一時出国制限を受けた日本人のインタビューについても書かれており、今の中国の内在するリスクも読み取ることができます。
プロローグでは、2010年9月に発生した尖閣諸島近海での中国漁船による海上保安庁の巡視船への衝突事件に触れ、その結果レア・アースの禁輸措置に触れています。
90年代末まで、アメリカや南米、それにオーストラリアなどにおいて、レア・アースは普通に産出されていた。ところが、中国は最大顧客(=日本)と地理的に近い強みを活用し、ダンピング攻勢をかけ、オーストラリアや南米の鉱山を閉鎖に追い込んでしまったのだ。・・・中国が日本にレア・アースを売らないというのであれば、豪州や南米、それに中央アジア諸国が喜んで鉱山を開くだろう。」(P14)
ただ、この件で気になったのは、最近の日経新聞の記事で、他国(米国?)で開発するレア・アースは値段が高い、とか何とか掲載されていたような気がします。なので、そう単純な話ではないのかもしれません。。。
第1章では、日中貿易の状況を諸外国と比べ、分析しています。「日本は輸出依存」という論調については、著書はこのように異議を唱えています。
日本の輸出依存度は「高度成長期」からせいぜい10%程度しかなかった。・・・日本の高度成長は旺盛な個人消費と公共投資、そしてそれらの需要に向け拡大した企業の設備投資により達成された。」(P21)
輸出依存度は「財の輸出÷名目GDP」で計算していますが、2009年では日本は10%、アメリカは7%、ドイツは33%、中国は24%、韓国は43%という結果になっています。中国の方が輸出依存度では日本を上回っているというわけです。
そもそもGDPとは経済的な付加価値の合計であって、売り上げの合計ではない。(P22)
また「中国依存」という話についても、以下のように説明しています。
09年における日本のGDPは、ほぼ5兆ドルであった。それに対し、中国・香港向けの輸出額は約1415億ドル、対GDPで2.79%である。(P28)
第2章では、これまでの中国の成長の中身の分析を解説しています。
・・・経済成長という実績以外に権威の拠り所がない中国共産党は、「不況」という事態を何が何でも避けねばならない。結果、強引なGDP成長ばかりが追い求められ、国内の環境悪化、前代未聞の不動産バブル、極端な投資依存経済など、歪みを拡大させる形で国民経済を発展させてしまったわけである。」(P54)
08年のサブプライム・ショック以降、・・・同国のマスコミには「保八」という単語が躍った。要は「経済成長率8%を死守せよ」という話であるが、理由は中国で経済成長率が8%を切ると、失業者の増大を抑えきれなくなるためだという。(P54)
また2000年以降の中国な急激な成長は、「投資」がもたらしたと著書は述べています。
中国の名目GDPは、インフレ分も含めて10年間で3.5倍になったわけだ。・・・ちなみに中国の個人消費は2.7倍にしかなっておらず、・・・それに対し、投資は4.6倍にもなっているのである。ここ10年間の中国経済は、完全に「投資」により牽引されてきたわけだ。(P72)
第3章では、実は中国は「輸出依存」であると解説し、それには人民元安が大きな要因であると述べています。
グローバル・インバランスの拡大が続いた理由は、主に以下の三つに集約できる。◆アメリカの不動産バブル・・・◆ユーロの存在・・・◆中国の人民元安政策・・・(P99)
・・・中国の膨大な輸出の担い手の”過半”が外資系企業である。中国の輸出額に占める外資系の割合は、2001年以降は常に50%を超えている。「世界の工場」などと呼ばれている中国は、実は自国資本のみでは輸出産業を維持することができないのである。(P117)
結局、「安い人件費、安い人民元」に寄りかかって成長してきた中国の輸出産業は、価格以外の付加価値を顧客に提供できないでいる。すなわち「安くなければ、誰も中国製品を買わない」というのが現実なのだ。(P120)
また、外貨準備高についても解説しています。私も正直よく分かっていませんでした。
・・・現在の中国の外貨準備高は、世界一である。これを捉えて「中国の対外資産は世界一」になる、奇妙な理解をしている日本人が、特にマスコミには異常に多い。(P125)
外貨準備とは、・・・「政府が持つ対外資産」である。中国は長年、管理的な為替政策を継続している。結果、中国の外貨準備高は年々増大しつつある。とはいえ、・・・外貨準備高とはあくまで、「政府が持つ対外資産」であり、中国国家の対外資産そのものではない。(P129)
中国の09年末時点の対外資産は、約294兆円である。その内、何と外貨準備は204兆円を占めているのである。・・・約7割は”政府保有”というわけだ。(P130)
本来的に「国家の金持ち度」を計る指標といえる「対外純資産」は、日本が148.8兆円であるのに対し、中国は129.1兆円に過ぎない。(P130)
第4章では、中国の不動産バブルについて解説しています。
リーマンショック以降の中国企業も、世界の多くの企業と同様に、投資意欲に欠けていたのだ。それにもかかわらず、中国共産党の指示で、同国の民間銀行から、ジャブジャブと中国企業にお金が流れていった。企業の投資意欲が高まらない中、政府の”指示”によりお金を貸し出させたわけである。(P150)
中国では現在、「房奴(ぼうど)」(住宅の奴隷)が社会問題になっている。すなわち、住宅ローンの支払いが可処分所得の過半を占める人々である。(P154)
現在の中国には、「富裕地と貧困地」「都市部と農村部」および「富裕層と貧困層」という、三つの格差問題が混在していると考えられる。(P192)
第5章では、以下のような結論を述べ、今後の中国経済に対し厳しい予測を立てています。
結局のところ、中国は”国民を豊かにする”という目標を忘れた”歪んだ成長”を継続した結果、先進国にはなれないまま成長の袋小路に突き当たり、そのまま終幕を迎えてしまう可能性が濃厚だ。これが、本書の結論である。(P213)
エピローグは、中国人社員の文書偽造に端を発し、民事トラブルに巻き込まれ、中国から一時期出国停止命令を受けた日本人とのインタビュー形式となっています。これを読むと、ちょっとゾッとします。
最悪のチャイナリスクとは、中国民事訴訟法231条である。(P216)
「(外務省のホームページに)この条文は載っていない。民事訴訟の当事者になると、出れなくなることがありますよとかいてあるだけです。」(P222)
「民主党の情報機関によると、百人前後の日本人が中国から出れなくなっていると」(P247)
著書の結論通り、今後中国が衰退に向かうのか、まだまだ成長持続していくのか分かりませんが、中国に対し卑屈にならず、情報を集め、冷静に正々堂々と向かっていくことが大切なのだと痛感しました。
データも豊富で、分かりやすく、色々勉強になったため、評価は★5つ(★★★★★)とさせていただきました。